1985年に初施行された電気通信事業法は、2024年、制定から40年の節目を迎えます。
市場は、固定電話から携帯電話、有線通信からワイヤレス通信へと、技術革新により環境はめまぐるしく変化し、その間、情報通信の発展に合わせたきめ細やかな改正がなされ、現在に至ります。
電気通信事業法は、インターネットが8割以上の世帯に普及した日本において、インターネットや電話回線により提供されるサービスを利用者が適正な価格で日本全国どこからでも利用できる環境を整備維持すると同時に利用者のプライバシーを保護する役割も担っています。
直近の改正法は、2023年6月に施行され、デジタル化の発展の促進、インターネット上で提供されるサービスが多様化している現状に合わせて、電気通信事業者のカテゴリの再定義や新しい事業者の類型が新設されました。
また、Webサービス提供に付随して発生する通信や転送される情報やデータが多様化している状況下で、利用者が本人が知らないうちに不利益を被らないための対応・対策として、新しい規律「外部送信規律」が導入されています。
電気通信事業法はその成り立ちから、特定の事業者を対象としているというイメージが根強く、企業としての対応要否を検討する以前にそもそも自社が対象になっているという発想がない、という方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、実はそれはちょっと危険です。
この記事では、そもそも改正電気通信事業法はどのような法律で、自社が同法の対象となるのかを判断するにはなにをチェックすればよいのかを見ていきます。
改正電気通信事業法の基礎知識
改正電気通信事業法は、インターネットなどの情報通信の更なる発展のため、各事業者の公正な競争を促し、日本全国どこからでも高速な情報通信が利用できる環境の整備を支援し、かつ利用者の安心・安全を保護するための法律です。
実は、1985年の初施行の前まで、電気通信事業は国や公共事業体によって100%運営されていたことを皆さんはご存知でしょうか?
電気通信事業を民営化し、競争原理や市場原理を導入することによって、サービスの効率化、技術発展を促し、その担い手となる民間の事業者には、利用者のプライバシー保護を含むさまざまな規律の遵守を課すことで、健全に経済発展に寄与することを目的としています。
電気通信事業法とは
電気通信事業法は、以下の目的で制定されています。また、その目的を達成するためにさまざまな規律を定め、参入する事業者に法令の遵守を課しています。
第一条 この法律は、電気通信事業の公共性に鑑み、その運営を適正かつ合理的なものとするとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者等の利益を保護し、もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進することを目的とする。
公正競争の促進
廉価で多種多様なサービスの実現を目的とした規律です。具体的な内容は以下の通りです。
・一般の事業者
自由で多様な事業展開を可能とするため、参入規制や利用者料金規制を緩和。
・特定の事業者(主要なネットワークを保有するNTT東西や携帯電話事業者)
ネットワークを利用する事業者が公平な条件等でサービスを提供できるよう、公正競争ルールを整備・運用
電気通信役務の円滑な提供の確保
確実かつ安定したネットワークの実現を目的とした規律です。具体的な内容は以下の通りです。
・電気通信サービスの中断等が生じないよう、安全・信頼性確保のための規律を課すとともに、電気通信事故や自然災害への対応を強化(伝送経路の多重化など)
・電気通信番号(いわゆる「電話番号」)等の資源を適切に管理し、サービスを円滑に提供
利用者利益の保護
誰もが安心して利用できる環境の実現を目的とした規律です。具体的な内容は以下の通りです。
・電気通信サービスに対する苦情・相談への対応や消費者トラブル防止のため、消費者を保護するルールを整備・強化
・通信の秘密を保護(憲法第21条第2項で規定)することにより、思想表現の自由やプライバシーを保護
民営化で一般の事業者に門戸を開き、40年が経過した現在、多種多様なサービスが情報通信インフラ上で提供されるようになりました。一方でサービス提供に付随し、サービスの提供には直接関係のないさまざまなデータ通信が爆発的に増え、利用者が不利益を被る状況が出現しています。
従来の電気通信事業者の枠には収まらないものの、「アプリケーション上で他者の通信を媒介して、サービスを提供する事業者」をどのように規律の対象に含めるべきか、改正電気通信事業法では、これらの課題に対応する改正がなされています。
これらの電気通信事業を営む者は、管轄省庁である総務省への届出義務や業務区域での役務提供義務があります。また、必要不可欠な社会インフラとして、不採算地域におけるサービス提供(いわゆるユニバーサルサービス制度)にあたっては、交付金などの公的な支援対象となります。
これらの基礎的電気役務を提供する事業者は、電気通信回線設備を設置し、他人の通信を媒介している事業者が該当します。
例)固定電話、携帯電話、インターネット接続サービス等
情報漏洩や情報の不適正な取扱いのリスクへの対応
インターネットのブロードバンド化に伴い、サービスは多様化し、グローバル化しています。またこの状況に伴って、情報漏洩や情報の不適切な取扱いや管理に起因するリスクは増大し、被害が出た際の甚大化も懸念されています。
特に国外の委託先や海外の関連会社から、数千万アカウントを数える日本のSNSサービスの利用者データへの継続的で大規模なアクセスがあった事案は、近年報道でも大きく取り上げられ、電気事業法の改正にあたっても対策がとられています。
・特定利用者情報の概念の新設
一定の規模を超える電気通信事業者は、特定利用者情報の適正な取扱いを義務化。
・外部送信規律の概念の新設
事業者が利用者の情報を外部の第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与。
公正な競争環境の整備
携帯電話をはじめとする移動通信市場の発展により、従来と比較して多様かつ低廉なサービスの利用が可能になっている一方で、卸料金が長年高止まりしているとの指摘もあります。
指定設備(携帯大手3社、NTT東西の設備)を用いたMVNO(Mobile Virtual Network Operator)等の参入を促すことにより、さらなる競争を図り、利用者の利益を実現することを目指しています。
・指定設備の卸役務提供の義務化および料金算定方法等の提示を義務化
・加入者回線の占有率(50%)の算定区域の見直し(都道府県から事業者の業務区域へ変更)
情報通信サービスでは、利用者の個人情報が取扱われるケースが多く、利用者情報の不適切な取扱いによって情報漏洩が発生する高いリスクがある事業分野です。今回の法改正では、特定利用者情報の概念が新設されるなど、規律も増加、かつ強化され、対象となる罰則の範囲も広がっています。
企業や政府のDXの推進、テレワークの定着や遠隔教育、生成AIの普及など、インターネット上のデータの種類や量は、今後も爆発的に増加するため、安定した情報通信インフラの整備維持は必要不可欠なものとなっています。
変化が激しい社会情勢への対応を常に迫られている電気通信事業法は、改正の頻度も高いため、インターネット上でサービスを提供する企業としては、定期的にチェックする姿勢が大切です。
改正電気通信事業法は自社に適用されるのか
自社の業務や提供するサービスが改正電気通信事業法に該当するのかを把握し、適切な対応を取ることが重要です。
ここでは、改正電気通信事業法が適用される定義や簡易的なチェックを紹介します。
改正電気通信事業法が適用される事業者の定義
電話回線やインターネット回線を通じ、音声や映像の送受信をする事業やメッセージ等の通信を媒介する事業、利用者の需要に応じるための事業を営む事業者が対象となり、届け出が必要となります。
対象となる事業は、インターネットサービスプロバイダやメールサービス、ECサイト、メッセージをやり取りするSNSプラットフォームなどが代表的です。
詳細な定義は、以下のように定められています。
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。
二 電気通信設備 電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。
三 電気通信役務 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。
四 電気通信事業 電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第百十八条第一項に規定する放送局設備供給役務に係る事業を除く。)をいう。
五 電気通信事業者 電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項(同条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定による届出をした者をいう。
六 電気通信業務 電気通信事業者の行う電気通信役務の提供の業務をいう。
七 利用者 次のイ又はロに掲げる者をいう。
イ 電気通信事業者又は第百六十四条第一項第三号に掲げる電気通信事業(以下「第三号事業」という。)を営む者との間に電気通信役務の提供を受ける契約を締結する者その他これに準ずる者として総務省令で定める者
ロ 電気通信事業者又は第三号事業を営む者から電気通信役務(これらの者が営む電気通信事業に係るものに限る。)の提供を受ける者(イに掲げる者を除く。)
自社が改正電気通信事業法の対象になるのかの簡易チェック
自社のサービスが当てはまる条件により、改正電気通信事業法の対象となるのかを簡易的にチェックすることができます。
条件1: 他人のために役務を提供していますか?
利用者同士の通話やメッセージの送受信が該当します。自社のサービス紹介を目的とした情報発信や、社内システムは該当しません。
条件2: 電気通信設備を用いて、反復継続してサービスを提供していますか?
電気通信設備とは、通信のためのサーバやネットワーク機器、その線路を指します。緊急、臨時で行っている場合は該当しません。
条件3: 料金の徴収など、利益を得ることを目的としていますか?
実際に利益が出ていなくても、利益を得ようとしていれば該当します。
上記1~3の条件において、1つでもNOであれば電気通信事業法は適用されません。全てYESであった場合、電気通信事業法の対象となります。自社の業務やサービスが改正電気通信事業法の対象になるのかを把握し、適切な対応を行うことが重要です。
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※上記は「電気通信事業 参入マニュアル」に記載の情報をもとに、簡易チェックを行えるよう当サイトにて加工したものです。実際の判断には、専門家や行政機関の見解や指示に従ってください。
法令を遵守したWebサイトの運用には、適切なサービス選定を
改正電気通信事業法は、インターネットを活用したサービスを提供する幅広い事業者にその適用範囲を広げています。他人の通信を媒介していないが、他社に情報や場所を提供する事業者を「第3号事業者」とし、同法の適用対象とするなど、新たな定義も規定されています。
同法の適用対象は、今後ますます増加することが想定されるため、自社や自社のサービスが同法の適用対象となるのかどうかは、事業の拡張や新設に際しては、必ず確認した方がよいでしょう。
改正電気通信事業法では、自社の事業が同法の対象となった場合、自社のWebサービスそのものだけでなく、アクセス解析など自社のWebサイトに付随して利用している各種サービスもその手法は適法なのかどうか、見直しを行う必要があります。
ただ、コストや工数、法的な専門知識の必要性など、自社のみで対処するのが難しいケースもあるのではないでしょうか。
そのような場合は、改正電気通信事業法に抵触しない外部サービスを検討することも有力な選択肢となります。外部サービスが推奨する運用を行うことで、法的リスクを削減することにも繋がります
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