生成AIの業務活用は、すでに多くの企業で「当たり前」になりつつあります。社内文書を読み込ませ、質問に答えさせるRAG(Retrieval-Augmented Generation、以降、本記事ではRAGと表記)によるAIチャットは、情報検索や問い合わせ対応の効率を大きく向上させました。しかし一方で、こうした声も聞かれるようになっています。

 

「結局、欲しい答えが出てこない」
「文書はあるはずなのに、AIが探してくれない」
「結局、人手で探すことになり、現場であまり使われなくなった」

 

なぜでしょうか?それは、多くのRAGが「テキストだけの世界」を前提に設計されているからです。

今回は、マルチモーダルAIとRAGの技術によって、私たちが日ごろ業務で扱っている文書管理がどのように進化するのか、見て行きたいと思います。

なぜ「テキストだけ」のAIでは競争優位にならないのか?

multimodal-rag-1

PageFinder-bar

 

RAGは本来、生成AIの弱点である「事実性」を補う優れた仕組みです。社内規程、マニュアル、契約書、議事録などを検索し、その内容を根拠として回答することで、ハルシネーション(生成AIの構造的特性のひとつで、もっともらしい嘘の回答のこと)を抑制できます。

 

しかし、現実の業務で取り扱う「文書」を見渡せば、そこには次のような情報が含まれており、テキスト検索だけでは不十分であり、対応しきれないことが分かります。

 

・PDFに埋め込まれた図表・画像
・図面、設計資料、スクリーンショット
・写真付きの報告書
・動画マニュアルや音声記録

 

これらは、業務を通じて生成される文書類であり、「文書管理システム」に保存されているにもかかわらず、テキストRAGでは十分に活用できません。OCRや要約によって文字情報に変換することは可能ですが、図や文書と画像の配置、視覚的な情報や位置関係、相関、因果関係は失われがちです。

 

結果として、「文書はあるのに、AIが分かってくれない」という、システムの現実と利用者の期待値のギャップが生まれます。こういった理由から、テキストAIだけの文書管理は、次第に競争力を失い、差別化ができない領域になりつつあるのです。

生成AIの第2フェーズ「マルチモーダルAIがビジネスをこう変える」

生成AIは今、大きな転換点を迎えています。それが「マルチモーダル化」です。マルチモーダルAIとは、テキストだけでなく、画像・音声・図表・動画など複数の情報形式(モダリティ)を統合的に理解・活用できるAIのことを指します。

 

例えば、先日、中国のByteDanceがリリースしたSeeDance2.0の高いクオリティがにわかに注目を集めましたが、SeeDance2.0はマルチモーダル対応の動画生成AIモデルです。

【参考情報】Seedance2.0

 

生成AIのマルチモーダル化は、単なる機能追加ではなく、生成AIの役割そのものを「文章を読む存在」から「業務を理解する存在」へと進化させることを意味しています。ビジネスシーンにおける文書管理の文脈で言えば、次のようなことが可能になります。

 

・図面やレイアウトを含めて資料を理解する
・PDF内の図と説明文の関係性を把握する
・写真付き報告書から、これまでの状況を理解し、次にとるべきアクションを立案する
・過去の類似資料を「見た目の近さ」から検索して探し出す

 

つまり、人が文書を見るときの理解のプロセスに近づいているのです。ここで重要になるのが「マルチモーダルRAG」という考え方です。

マルチモーダルRAGがもたらす業務インパクト

multimodal-rag-5

マルチモーダルRAGとは、テキスト検索に加えて、画像・図表・構造情報なども検索・参照の対象にすることができるRAGのことです。これは単に「検索対象を増やす」という話にとどまらず、業務のスピードと質を同時に引き上げる点にその本質的な価値があります。

1. 文書検索が「探す」から「分かる」へ

従来の文書管理では、ファイル名、フォルダ構成、キーワードに依存した検索を中心としていました。マルチモーダル検索では、図の構成、表のレイアウト、画像の内容といった要素も含めて検索することができます。

 

例えば、過去に作成した資料の中に配置した画像の特徴として、「黒いラップトップPCの画像データがあるページを探して」

 

という問いに対して、検索で入力した文字や文章の意味を理解し、問いの内容と画像の内容を関連付けて認識し、黒いラップトップPCの画像が含まれている資料のページを探し出し、表示してくれるのです。

2. マルチモーダルAI×RAGは、現場で求められるAI

社内文書を読み込ませ、質問に答えさせるRAGによるAIチャットは、すでに業務で使用している方も多いと思いますが、そこにマルチモーダルAIを組み合わせることで次のような変化が起こります。

 

・回答の根拠として、検索の元になった該当ページの図や表を提示
・「この資料のどこを見ればよいか」を視覚的にガイド
・過去の類似資料を比較用途として並べて表示

 

これは、単なるQ&Aツールではなく、業務をナビゲートする役割を生成AIが担っていると言えます。特に情報に画像や音声データを多く含む次のような業務でその効果が顕著に現れます。

 

・新人教育・業務の引き継ぎ
・問い合わせ対応の一次切り分け
・社内ルール・申請フローの教示
・技術資料・設計資料の検索や内容の理解促進

 

AIに聞くと、「きちんと資料を見て理解した上で答えてくれる」ため、信頼性の高い回答をそのエビデンスとともに得ることができます。

 

このような成功体験は、部署異動によりあらたな業務を覚えなければならないシーンや新人が担当業務で早期に独り立ちをしなければならないシーンなどで、現場の業務効率を飛躍的に向上させます。

結果的に業務利用におけるAIの信頼性を大きく高める存在になっていきます。

3. 文書管理システムが利用者に提供する優位性

RAGによるAIチャットは、今後、文書検索における標準機能となってくるでしょう。そのプロセスの中で業務利用において差がついてくるのは、次の点ではないでしょうか?

 

・非構造データをどこまで扱えるか
・検索結果をどれだけ「使える形」で返すことができるか
・業務内容や検索している意図をAIがきちんと理解していると感じられるか

 

マルチモーダルAIとRAGを統合した文書管理システムは、「文書を保存する場所」を「文書の内容や文書に記載されている情報を活かす基盤」へと進化させ、テキストRAGが抱える限界である、生成AIの業務利用における以下のような課題を解決できるでしょう。

 

・PDF内の図表が無視されてしまう
・仕様書・設計書等でチャートや設計図等の情報が抜け落ち、誤解や齟齬の原因となってしまう
・検索時に情報が網羅されない結果、利用者から「AIが間違いを教えた」「回答が不十分」「AIは使えない」と評価される

 

マルチモーダルAIによるRAGは、文書そのものを理解の対象とします。回答の責任を人とAIで分担するとも言い換えることができ、最終的な判断は「人間」、「AIは補助」という業務整理がしやすい構造と言えます。ガバナンス設計がしやすいAIは、法令順守を推進する企業活動とも親和性が高い仕組みとして機能します。

マルチモーダルAIと法令順守の関係性

1. EU AI Actとの関係

2024年8月1日に施行された世界初のAI規制法であるEU AI Actでは、以下の基本原則を重視しています。RAGもマルチモーダルAIも、それ自体が規制対象となるわけではありませんが、問われているのは「業務でどう使われるか」、「透明性を確保しているか」、「どのように使っているかエビデンスを伴って説明できるか」という観点です。

 

・透明性(Transparency)
・トレーサビリティ(Traceability)
・人間の監督(Human Oversight)
・説明可能性(Explainability)

 

また、マルチモーダルAIによるRAGは、EU AI Actの基本原則をその機能で網羅していることが分かります。

 

・透明性(Transparency):参照文書・ページ・図を提示
・トレーサビリティ(Traceability):検索・参照ログを残しやすい
・人間の監督(Human Oversight):AIは「根拠提示役」に留められる
・説明可能性(Explainability):視覚的に説明できる

 

【参考情報】2026年8月に迫る本格適用、EU AI Actの自社への影響を再確認しよう

2. 日本のAI法との関係

日本では、2025年9月にAI法が施行されました。日本のAI法は、EU AI Actとは異なり、規制よりもAIの開発・利活用推進を重視したソフトローのスタンスをとっています。罰則はありませんが、不適切利用や説明責任の重要性について、事業者の自主的・合理的な対応を求めています。

 

・規制より「推進」
・罰則なし
・事業者の自主的・合理的対応を尊重

 

しかし同時に、次が明確に示されており、AIの利用にあたりこれらを遵守することが事業者に求められています。罰則はありませんが、人間中心の信頼できるAIの推進、AIのリスクに着目したガバナンス、透明性や説明責任、信頼性の確保といった観点はEU AI Actと方向性が共通しています。

 

・不適切利用への懸念
・説明責任の重要性
・国民・利用者の信頼確保

 

【参考情報】AI規制法の各国の現在地、日本と各国との違いや企業への影響について知ろう

マルチモーダルAI×RAGは、法令順守を実現しやすい組み合わせ

マルチモーダルAIによるRAGはなぜ、コンプライアンスと親和性が高いのでしょうか?もう少し掘り下げて見てみましょう。

①判断をAIに委ねない設計

・AIは「探す・示す」を担当
・最終的な判断は人間が行う
・よって「AIが決めた」という構図にはならない

②既存文書・ルールを尊重

・新しいデータを作らない(ブラックボックス化の回避)
・既存の文書や情報、データを“正しく使う”ことにフォーカス
・日本企業の内部統制と相性が良い

③説明と納得を重視

・回答+根拠提示(説明責任・高い監査耐性)
・業務説明・内部説明に使える(使っても会社から怒られないAI)
・日本のAI法が目指している「信頼されるAI活用」に合致

 

RAGは「正しさ」を補う技術として普及しましたが、マルチモーダルAI×RAGは、さらに「その仕組みから透明性を確保し、説明できる正しさ」を実装する技術と言えます。EU AI Actや日本のAI法が目指し、求めているのは、「人が責任を持てる形でのAIの活用推進」と言えます。

 

マルチモーダルAI×RAGをシステムの中核に据えた文書管理は、効率化と信頼性を両立させるひとつの現実解と言えそうです。

生成AI利用におけるガバナンスの重要性

multimodal-rag-4

生成AIの利活用においては、企業が健全・公正に経営や業務を監督・統制できる仕組みや管理体制を整え、その適切な管理下で使用され、かつ、それをエビデンスをもって証明できる透明性の高い運用を行っていることが求められます。

1. 「答え」だけでなく「根拠」を示せる

マルチモーダルAIによるRAGは、企業のガバナンス強化の要請に応える仕組みとして、有効に機能させることができます。マルチモーダルAIは、利用者からの問いかけに対して、以下を併せて回答するためです。

 

・該当文書のページ
・参照した図表や画像
・関連する類似資料

 

これは、EU AI Actが重視する、透明性・トレーサビリティの考え方と非常に相性が良い設計です。「なぜそのような回答になったのか」を人が確認できる形で残すことは、説明責任・監査耐性に対応し、かつ利用者の業務利用においても大きな安心材料になります。

2. 業務効率とコンプライアンスの両立

日本のAI法は、AIの研究開発・活用を促進しつつ、適切なリスク対応と説明責任を重視する立場をとっています。マルチモーダルAI×RAGの文書管理では、以下の点でブラックボックス化を避けたAIの業務活用を実現することができます。

 

・既存文書をそのまま活用できる
・判断根拠を文書単位で残せる
・AIの出力を“補助的判断”として位置づけることができる

 

これは、「AIに丸投げし、任せきりにしない」、「最終的には人が判断する」というAIガバナンスとも親和性が高い仕組みです。

3. 文書管理システムにおける次のスタンダード

今後、RAGによるAIチャットは多くの製品やソリューションで標準機能になっていくでしょう。そのような中で、差別化の軸になってくるのは以下の観点です。

 

・非テキスト情報をどこまで扱えるか
・回答の根拠をどれだけ明確に示せるか
・法規制や監査要件に耐えられる設計か

 

マルチモーダルAI×RAGを統合した文書管理は、業務効率を高める優れた仕組みであり、利用者の理解を助ける存在であり、かつ安心して業務使用できる情報基盤であると言えるでしょう。

文書管理の価値は「探せる」から「理解する」のフェーズへ

multimodal-rag-6

増え続ける一方のデータや情報、これからの文書管理システムに求められるのは、難易度を増す情報検索や情報活用における以下のポイントです。

 

・必要な情報に、すぐに辿り着けるか
・文書の意味を、AIが正しく理解しているか
・利用者が業務判断に安心して使うことができるか

 

そのための鍵が、マルチモーダルAI×RAGの仕組みです。「テキストAIだけでは見えなかった価値を、図や画像を含めて文書そのものが持つ情報ごと理解し活用する。」生成AIの活用は、「使えるかどうか」から、「安心して使い続けられるか」というフェーズにきています。

 

文書管理は「効率」だけでなく、「回答の信頼性」「各企業の競争力の源泉でもある業務理解」で選ばれる時代に入ったとも言え替えられるでしょう。

 

・根拠が示せること
・説明できること
・人の判断を支えること

 

マルチモーダルAI×RAGによる文書管理は、業務の効率化とガバナンスを両立させる、現実解です。それは、EU AI Actや日本のAI法が目指す「信頼できるAIの活用」とも重なります。
文書を「探す」だけでなく、文書を「理解し、活かす」。

 

次世代の文書管理において、企業が持っている、そしてこれからさらに生み出される情報資産を最大限活用し、近い将来、企業の競争力を高める鍵となっていく仕組みであると言えるでしょう。

 

マルチモーダルAI×RAGを無料でご利用頂ける「PageFinder」、是非、お試しください。

 

PageFinder-bar