普段の生活のなかでインターネットにアクセスする際、当たり前のように私たちが使っているブラウザですが、日本ではChrome, Safari, Edgeで実に95%以上のシェアを占めていることをご存知でしょうか?
現在、インターネットアクセスの主流は、PCからスマホにシフトしています。ブラウザやアプリなど、コンテンツや各種サービス、情報にアクセスする機能そのものを提供している企業側の視点としては、ブラウザやアプリは、利用者と企業が直接接点を持つタッチポイントであり、利用者同士を繋ぐ媒体であり、自社のサービスを提供するプラットフォームでもあります。
そして同時に、利用者に関する情報を収集する「ゲートウェイ」としての役割も担っており、ビジネス戦略上、必要不可欠なツールと位置付けていることは間違いないでしょう。一方で、いちユーザとしては、近年ユーザのプライバシー保護に特化したブラウザも登場しており、実は幅広い選択肢があるということも、知っておくべき情報と言えます。
今回は、ユーザとして自身に関連するデータの流出を如何に守るか、どのように自身に関する情報を管理したらよいか、利用者の視点で一緒に考えてみたいと思います。
目次
現在利用しているブラウザはいつからあるのか?
2006年当時、当社の会議内でブラウザを提供する企業が将来、市場で優位な立場を獲得するだろうと話題にのぼり、なんとか提供する方法はないものか、と真剣に議論をしていた時期がありました。
ハードウェアメーカーでもない、プラットフォーマーでもない企業がどうやってユーザの端末にブラウザを届けるか、という課題への解決策が見つけられず、結局その議論はそこで収束してしまったという笑い話があります。現在、主に使われているブラウザのリリース時期から見てみましょう。
・Chrome:2008年12月(Windows正式版:Chrome1.0)リリース
・Safari:2003年6月(MacOS正式版:Safari1.0)リリース
・Edge:2015年7月(Windows10と同時)リリース
※前身のInternet Explorerは、1995年8月(Windows95)とともに出荷
Chromeがリリースされてから早17年となりますが、リリース当時、衝撃を受けた軽さと速さと操作感の顧客体験は今でも覚えており、瞬く間に世に広まりました。プラットフォーマとしてのGoogleがブラウザを独自に開発し提供することによって、ブラウザは単なる機器やOSに付属したWebアプリケーション以上の意味を持つようになりました。
Edgeは2020年1月、Googleが提供しているオープンソースのChromiumを基盤とし、独自機能をアドオンで開発した新しいアーキテクチャに移行しました。
Safariは、Appleが独自開発しているブラウザで、2007年6月のiPhoneの発売と同時にiOSに標準搭載され、自社のデバイスに最適化されたブラウジング体験を提供してきましたが、近年は利用者のプライバシー保護に重点を置き、関連する機能を次々とアップデートしています。
こうしてみると、ブラウザは現在GoogleとAppleの2強に集約されていることが分かります。
各国別のブラウザのシェアは、以下のサイトで調べることができます。ご参考下さい。
ブラウザを開発し、ユーザに提供することの意味とは?
それでは、ブラウザを開発し、ユーザに提供することでどのようなことが可能になるのでしょうか?
ブラウザを提供することで得られる優位性
1. データと広告収益の獲得
ブラウザはユーザのインターネット上の検索行動を追跡できます。検索エンジンや広告事業と組み合わせることで大きな収益を生み出すこともできます。Google Chromeが圧倒的なシェアを誇るようになった理由の一つは、検索エンジン(Google)との連携により、広告ビジネスを強化してきた点にあります。
2. エコシステムの強化
ブラウザは、OSやクラウドサービス、アプリストア、AIアシスタントなどと連携しやすい戦略的なツールです。AppleのSafari、Microsoft Edge、Google Chromeは、それぞれのプラットフォーム(iOS/macOS, Windows, Android)に統合され、ブラウザを通じて各社が提供するサービスに利用者を誘導しています。
3. Web標準となりえる影響力の獲得
高いシェアを持つブラウザの技術やポリシーは、将来的にWeb仕様のスタンダード(例:HTML、CSS、JavaScript、プライバシー規制など)となる可能性があります。Appleは、Safariを通じてプライバシー保護の強化(例:ITP: Intelligent Tracking Prevention)を推進していますが、世界的な法制化の広まりを背景に、現在、ブラウザ仕様のスタンダードと表現しても違和感がない状況となっています。
4. 独自の顧客体験の提供
本来ブラウザは、利用者が自身が重視する価値観(操作感や機能、プライバシー保護)に従って、自由に選択できるものです。たとえば、Braveはプライバシーを重視した広告モデルを導入していますし、FirefoxはDNT機能(Do Not Track)を世界で初めて搭載するなど、オープンなWebの維持を重視しています。それぞれのブラウザが異なる価値観と世界観を体現しています。
市場を独占することによるリスク
ブラウザ市場を支配すると、競合するサービスを排除しやすくなります。その一方で、市場の独占は競争当局による監視対象となります。たとえば、2000年初頭、MicrosoftはInternet ExplorerをWindowsOSにバンドルし、競合のブラウザを排除しようとしましたが、米国の連邦地裁とEUで独占禁止法違反と判断されました。
現在、GoogleはChromeを通じて検索市場をほぼ独占していますが、2024年8月にワシントンD.Cの連邦地裁は、独占禁止法違反と認定しました。同年11月米司法省は、Googleに対しChromeブラウザの事業の売却を是正措置として提示しています。
日本においても、2025年4月15日、ついに公正取引委員会がGoogle LLCに対して排除措置命令を行いました。AndroidスマホにGoogle Chromeをプリインストールし、アプリのアイコンを初期のホーム画面に配置すること、および他の一般検索サービスの実装を利用者を除く第三者にさせない、などの許諾条件が独占禁止法に抵触する違反行為であると認定しています。
【参考情報】(令和7年4月15日)Google LLCに対する排除措置命令について
ブラウザのシェアは、単なるツールの人気競争やシェア争いだけではなく、データの覇権争い、収益、標準規格、マーケティング戦略など、市場の多くの側面に影響を与えています。そこにあるのが当たり前で、特に意識せずに自身で選択して使っているようにも思えるブラウザですが、「そこにあること」そのものが、提供する企業側の戦略でもあります。
もっと利用者が自身の価値観で、服を選ぶように最適なブラウザを選択するようになると、インターネットの利用環境が変化する可能性を秘めていますが、現時点では、強力なエコシステムを背景に持つ企業のブラウザが、市場のシェアを独占している状況と言えます。
Cookieだけではない?ブラウザフィンガープリントとは?
2018年のGDPRの施行と同時期に始まったSafariのITP以降、主要ブラウザ各社はCookieの使用に対する自主規制を強めています。Cookieの生存期間が1日や7日に制限され、同一ユーザの特定が極めて困難となる状況のなか、Cookieの代替技術として、フィンガープリント(デジタル指紋)が今改めて注目されています。
フィンガープリントは、デジタルで生成される「指紋」を意味します。デバイス、ブラウザ、コンテンツ等の種類があり、それらから得られる情報を用いて、固有のハッシュ値を生成し、その値でユーザを一意に特定する技術です。
例えば、ブラウザのフィンガープリントでは、UserAgent、OS、ブラウザを実行しているプラットフォーム、ブラウザのプラグインの種類、画面の解像度、言語、フォント、タイムゾーン、メモリ数、CPUの種類、などの情報を組み合わせ、ハッシュ値を生成します。
フィンガープリントの用途は幅広く、データやユーザの識別、多要素認証、コンテンツの複製防止や著作権保護、広告配信など、あらゆる分野や製品、サービスで現在使用されています。
フィンガープリントの主な用途
1. セキュリティ目的:不正アクセスの検出・防止
フィンガープリントを使ってログイン環境を記録し、いつもと違う環境からのアクセスを「不審」とみなし、メール送信などでアラートを上げます。(例:銀行のオンライン口座や仮想通貨取引所、セキュリティレベルの高いSaaSサービスなど)
2. ボットの検出
botが自動化してアクセスしてくる場合、プログラムで作られたブラウザやデバイスのセッティングや環境に不自然さがある点を検出します。(例:画面サイズが0px、フォントなしなど)
3. 広告・マーケティング目的:トラッキング(Cookieレスでも追跡可能)
Cookieをブロックされても、フィンガープリントでユーザを識別し、再訪問者と判断します。(例:Aさんはこの広告を何度見たか?前回の来訪はいつで、どこから流入したか?など)
4. ライセンス管理・DRM(Digital Rights Management)
ソフトウェアやWebサービスで、一つのライセンスを複数の人数で使い回していないかを検出します。(例:同じユーザの「別デバイス利用」を制限したい場合など)
5. ターゲティング広告
「特定の地域」「特定のデバイス」「フィンガープリントの情報」などからユーザ属性を推定し、広告の最適化に使用します。
6. アドフラウド(広告詐欺)の検出
同一人物が広告を何度もクリックしていないか、フィンガープリントを元に不正行為を検出します。
7. アナリティクス(解析)
フィンガープリントを用いてユニークな訪問者数をカウント、Cookieに依存することなくWebサイト内のユーザの行動を時系列に把握することができます。
ITP対策としては有効、ただしGDPRには抵触
ブラウザのフィンガープリントは、ITP対策の観点からは、Cookie以外の項目を使ってフィンガープリント(ハッシュ値)を生成しており、かつ生成に使用されている各項目は、Cookieの生存期間である1日や7日間よりも長く、更新頻度も低いため、ユーザの特定にある程度の有効性が期待できます。
一方で、GDPRでは保護対象としている個人データを「識別された、または識別可能な自然人に関するあらゆる情報」と定義しており、ブラウザーのフィンガープリントも「個人データ」に該当するため、規制の対象となります。
企業がフィンガープリントを利用する際は、自社の事業やサービスの内容、提供する国や地域、遵守すべき法令の観点から、時には法律の専門家も交え、確実に検討することが重要です。
Cookieの代替技術については、以下の記事でも詳解しています。
【関連記事】Cookie活用に大きな制限が掛かる今、知っておきたい代替技術を解説!
Cookieやフィンガープリントによるトラッキングへの対策
規制を回避するために次々と開発され、市場に投入される最新技術、そこから自身のプライバシーを守るために何ができるでしょうか?
Cookieへの対策
・ブラウザの設定でCookieを制御
サードパーティCookieをブロック、すべてのCookieをブロック or セッション終了時に削除するなど、サイトごとにCookieを管理します。
・Cookieの同意取得での意思表示
どのレベルのCookieについて許可するか(必須、パフォーマンス、トラッキング、広告等)を適切に判断し、確実に意思表示を行います。
・拡張機能の活用
ブラウザの拡張機能を使ってトラッキングをブロックします。(例:AdBlock, Adblock Plus, Ghostery, AdGuard, uBlock Origin Lite, Privacy Badger, ClearURLsなど)
・プライベートブラウジングの活用
シークレットモード、プライベートウィンドウでは、Cookieはセッション終了とともに消えるため、セッションを跨いだ追跡を抑止することができます。
・プライバシー重視のブラウザの使用
Tor Browser、Safari、Firefoxのプライバシー強化設定、Braveなどの使用を検討します。
・定期的なキャッシュやCookie、ローカルストレージのクリア
生存期間が長いCookieへの対応として、一意なユーザとして継続して特定されないよう、定期的にCookieやローカルストレージをクリアすることも有効です。
Cookieの種類とプライバシー対策については、以下の記事でも解説しています。
【関連記事】Cookieとは?対策必須なプライバシー関連法と併せてわかりやすく解説!
フィンガープリントへの対策
・プライバシー重視のブラウザの使用
Tor Browser、Firefoxのプライバシー強化の設定、Braveなどの活用を検討します。Safariの設定でフィンガープリンティング保護を選択し、サイト越えトラッキングを防ぐ設定を行います。
・ブラウザの指紋対策向けのプラグインを活用
All fingerprint Defender, uBlock Origin Lite, NoScript, CanvasBlocker, Privacy Badgerなど、プラグインの活用を検討します。
・ブラウザの設定を調整する
WebGL, Canvas, AudioContextなど、高度なフィンガープリント技術で使用される項目の設定を制限し、Cookieやローカルストレージは自動削除設定を検討します。尚、JavaScriptそのものを使えなくすると通常のサイト閲覧にも影響があるため、設定のレベルに留意して行います。
・プロファイリングやセッティングの統一
可能な限り標準設定を採用し、極力独自の設定を行わないことで、特徴的なセッティングを無くします。ブラウザを目立たなくすることで、その他大勢の訪問者との差異がなくなり、一意に特定されにくくなります。
複数のブラウザを使い分けている場合は、それぞれのブラウザで忘れずに行うようにしましょう。
自身のプライバシーを守るために知り・考え・そして行動すること
今回はブラウザを提供することのビジネス的な意義やCookieの代替技術として注目されるフィンガープリント技術について見てきました。
技術革新で世の中がますます便利になる一方で、自身のデータやプライバシーをどうやって守るか、いちユーザとしてリテラシーを高めないとデータや情報はいいように搾取されてしまう危機感をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。自身のプライバシーを守るためにはまずは知り、何をどこまで相手に渡してよいか、渡したくないかを判断し、そして行動することが大切です。
RTmetricsは、企業の法令を順守したデータ収集とデータ活用をサポートしています。Cookieの利用を同意しない利用者の意思を尊重し、途中で意思表示が変わったとしても、過去に遡ってその方の個人データをデータべースから削除する機能を標準でご用意しています。
コンプライアンスを重視したデータ活用をご検討中の方は、是非ご検討下さい。